2026.8.23

NEWS
「ペット忌引休暇」欧米と日本
ペットが亡くなったとき、会社は休ませてくれますか?
——海外で進む制度化と、日本企業がいま始められること
私自身、10年以上一緒に暮らしている犬がいます。
「もし今日、この子がいなくなったら」
ペットと暮らす人なら、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
そのとき、会社は何日休ませてくれるのか。就業規則を開いてみて、「何も書かれていない」と気づく人も少なくないはずです。
これまでペットとの死別は、職場ではあくまで「個人的な事情」として扱われることがほとんどでした。ところが今、海外ではこの問題を雇用制度として扱おうとする動きが始まっています。そして日本では、法律を待つことなく、独自の制度をつくり始めた企業がすでにあります。
米国では、複数の州で法案が動き始めている
2025〜2026年の議会会期では、ペットの死や病気に伴う休暇を制度化しようとする法案が、米国の複数の州で提出されています。いずれも現時点では成立していません。
それでも、これまで個人の問題として扱われてきた「ペットとの死別や看病」が、州レベルの労働政策として議論され始めたことには大きな意味があります。
イリノイ州 SB1670
既存の「家族忌引休暇法(Family Bereavement Leave Act)」を改正し、対象に「コンパニオンアニマル」を加える法案です。
対象となるペットが亡くなった場合、最大5就業日の無給休暇を取得可能
12か月以内に複数のペットが亡くなった場合、合計最大10就業日まで取得可能
2025年2月に提出、2026年8月時点では成立には至っていない
ニューヨーク州 A.791
ニューヨーク州で議論されているのは、忌引そのものではありません。既存の有給傷病休暇を、病気のペットの診断や治療のためにも使えるようにする法案です。
つまり、「亡くなったあと」だけでなく、その前にある通院や看病の時間を労働制度の中で扱おうとしています(2026年8月時点で審議中)。
ミズーリ州 HB3207
さらに具体的なのがミズーリ州です。従業員10人以上の企業に対して、ペットが亡くなった際に最低3日の忌引休暇を設けることを求める法案で、そのうち少なくとも1日は有給とする内容です。
死亡後30日以内であれば、連続でも分割でも取得可
企業は必要に応じて獣医師の書類など合理的な証明を求めることも可
「何日休めるか」だけでなく、「有給か無給か」「いつまで取得できるか」「何を証明とするか」まで制度設計の対象になっている点は、日本企業にとっても参考になります。
英国では「法律」ではなく、企業へのガイダンスを求めている
英国では、法制化とは少し違う動きが起きています。政府に対して、ペットとの死別を経験した従業員に配慮し、企業が休暇を認めるよう促すガイダンスを出すことを求める議会請願(Petition 767777)が提出されています。請願は2026年11月15日まで署名を受け付けています。
米国では「法律」、英国では「企業への指針」。アプローチは違っても、ペットとの死別を「本人が勝手に乗り越えるもの」ではなく、職場も考えるテーマとして捉え始めていることは共通しています。
日本では、法律を待たず企業が動いている
そして興味深いのは日本です。日本には現在、ペット忌引を企業に義務づける法律はありません。それでも、企業が独自に制度をつくり、すでに運用している事例があります。
第一アイペット損害保険
同居するペットが亡くなった際、最大3日の「ペット忌引き休暇」を取得できる制度を設けています。さらに、ペットと同居する社員は、ペットのために年間最大2日の「ペット休暇」を取得できます。制度が存在するだけではなく、実際に社員が使っていることも公表されています。
株式会社バイオフィリア
創業時の2017年から有給3日間のペット忌引制度を導入。さらに2021年には制度を見直し、それまで「亡くなった翌日から」だった休暇の起算日を、「亡くなる前日から」取得できる仕組みに変更しました。
背景にあったのは、代表自身の「もっとしっかり看病し、最期を看取りたかった」という経験です。死亡したあとだけでなく、「看取りたい」という飼い主の現実に制度を合わせた設計です。
株式会社PEPPY
2025年6月に「ペット共生型福利厚生制度」として複数の制度を正式に整備しました。ペット忌引休暇だけではありません。
ペット看護休暇:急な体調変化や闘病、老齢期のケアに利用可
ペット手当:毎月の生活費の一部を補助
ペット同伴出社制度
専用駐車場の利用制度(2025年9月から追加)
ここまで制度を広げる企業もあれば、忌引休暇だけから始める企業もあります。つまり、「ペットフレンドリー企業になるなら、同伴出社も手当も全部そろえなければならない」ということではありません。
ペット業界以外にも広がり始めている
さらに注目したいのが、ペット関連企業以外の動きです。
2026年7月、日本ベーリンガーインゲルハイムをはじめとする日本国内3法人が、同居する犬・猫が亡くなった際に1日の忌引休暇を取得できる制度を導入しました。契約社員も対象で、単身赴任中の社員については帰省先で同居している犬・猫も対象。同一年度内で最大3回まで取得可能です。
ここで重要なのは、休暇が「1日」であることだと思います。
ペット忌引制度というと、大がかりな福利厚生制度を新しくつくらなければならないように感じるかもしれません。でも、必ずしもそうではありません。
既存の慶弔休暇の対象を少し広げ、 「同居する犬・猫が亡くなった場合は1日」と定める。 それだけでも制度は始められます。
「休まない」ことのコストを数字で見る
では、制度がなければ社員はどうしているのでしょうか。第一アイペット損害保険が、犬・猫を亡くした経験のある会社員1,000人を対象に実施した調査があります。
項目 | 割合 |
|---|---|
ペットを亡くした際に「仕事を休まなかった」人 | 73.0% |
ペットロスによって「仕事のパフォーマンスが一時的に下がった」と回答した人 | 68.5% |
休まなかった理由 「休むのは理解されないと思った」 | 41.0% |
7割が休まず、7割近くが仕事のパフォーマンスを落としている。 この数字は、とても象徴的だと思います。
「みんな普通に出社しているのだから、制度は必要ない」——そう見えてしまうかもしれません。でも実際には、
休む必要がないから出社しているのではなく、 休んでいいと言われていないから出社している人がいる。
そして、悲しみを抱えたまま仕事をしている。
休暇制度の議論では、「休ませることで会社にどれだけ負担がかかるか」が語られがちです。けれど、本当に考えるべきなのは、「休ませないことで、どんなコストが生まれているのか」なのかもしれません。
ペット忌引は、実はそれほど複雑な制度ではない
「制度としてはいいと思う。でも、運用が大変そう」——人事担当者の方なら、そう感じるかもしれません。
実際、同じ調査でも、ペット休暇について「必要だと思う」と回答した人が28.7%だった一方、「あった方が良いとは思うが、現実的には難しい」と回答した人が51.4%いました。約8割が必要性を感じながら、多くの人が「実際に制度にするのは難しい」と考えています。
でも、先行企業を見ると、最初に決めることはそれほど多くありません。大きくは3つです。
1. 誰を対象にするか
犬・猫に限定するのか、動物の種類を限定しないのか
同居を条件とするのか
年間の取得回数や頭数に上限を設けるのか
ここを最初に決めておけば、申請のたびに会社が個別判断する必要はなくなります。
2. 何日休めて、いつから取得できるのか
1日なのか、3日なのか
有給なのか、無給なのか
そして意外と重要なのが「いつから取得できるか」
死亡日以降だけを対象にすると、最期の時間を一緒に過ごすために休んだ日は対象になりません。バイオフィリアのように「亡くなる前日から」とする方法もあれば、ミズーリ州法案のように「死亡後30日以内」と取得可能期間を広く設定する方法もあります。
3. 申請時に何を求めるか
人の忌引とは違い、ペットには戸籍がありません。動物病院の書類や火葬証明を求めるのか、あるいは社員の自己申告だけで取得できるようにするのか。
厳格な証明を求めれば不正利用は防ぎやすくなりますが、その分、本当に制度を使ってほしい社員に負担をかけることにもなります。会社としてどこまで確認するのかを、あらかじめ決めておく必要があります。
最初から完璧な「ペット福利厚生」をつくらなくてもいい
ペット看護休暇。ペット手当。ペット同伴出社。ペット保険の補助。ペットフレンドリーなオフィス。——ペットと働く会社を考え始めると、できることはいくらでもあります。
でも、最初からすべてを用意する必要はありません。たとえば、
「同居するペットが亡くなった場合、特別休暇を1日取得できる」
まずは、この一文を就業規則に加えるところからでも始められます。運用してみて、社員の声を聞く。必要であれば対象を広げる。看護休暇を追加する。
制度は、最初から完成させるものではなく、会社に合わせて育てていけばいいのだと思います。
「休んでもいい」と会社が先に言っておく
ペット忌引休暇の価値は、実際に取得される休暇の日数だけではないと思っています。
「ペットが家族であることを、この会社は理解している」——社員がそう感じられること自体に意味があります。
大切な存在を亡くした当日に、「犬が亡くなったので、今日休んでもいいでしょうか」と上司に説明し、理解してもらえるかどうかを本人に委ねる。それと、「こういうときは休んでいい」と会社があらかじめ決めておく。たった1日の休暇でも、この2つには大きな違いがあります。
ペットフレンドリー企業を、一社ずつ増やしたい
米国では法案が提出され、英国では政府のガイダンスを求める請願が進み、日本では企業が独自の制度をすでに運用しています。だから私は、日本企業が法律を待つ必要はないと思っています。参考にできる制度は、もうあります。
そして始めるために必要なのは、大がかりな福利厚生パッケージではありません。自社なら、
誰を対象にするのか
何日休めるのか
どんな申請方法にするのか
まず、その3つを決めるところからです。
私自身、長く一緒に暮らしている犬がいます。この子も、いつかその日を迎えます。
そのとき私は、「犬が亡くなったので休ませてください」と申し訳なさそうにお願いするのではなく、自分の会社の制度を使って、堂々と休みたいと思っています。
そして同じことが、ほかの会社でも当たり前になってほしい。「休んでもいいよ」と、会社の側から先に言える会社を、一社でも多く増やしたいと思っています。
ペット忌引休暇は、1日からでも始められます。
「うちの会社でもできるかもしれない」——そう思ったところが、制度づくりの一歩目です。
ご相談について
ペット共生型の福利厚生制度を検討されている企業には、他社事例のリサーチから、対象範囲・取得日数などの制度設計、就業規則への落とし込み、社員への周知方法まで、実際に運用できる形にするところまで伴走します。
制度を大きくすることではなく、その会社に合った形で、きちんと使える制度をつくること。 そこから一緒に考えます。
ご相談は、お問い合わせフォームからお気軽にお寄せください。
